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周防正行監督の映画『シコふんじゃった。』と『Shall We ダンス?』は、久々に日本映画に活気をもたらした。あらゆる映画賞を総ナメにした軽妙洒脱なユーモアとテンポの良さ、時代を読む抜群のセンス。その後、全米で公開され、黒澤明監督の『乱』を凌ぐ興行成績を記録するなど、益々期待される監督となっている。ところが本人はいたってクール。肩ひじを張らず、ひょうひょうとしたキャラクターには、ひと昔前の映画監督のイメージを心地よく裏切ってくれる爽やかさが潜んでいる。 |
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JR市ヶ谷駅近くの「亀岡八幡宮」は、ビルと車の渋滞に囲まれながらも静かなエアポケットみたいな空間になっている。これまでその前を数え切れないほど通ってきたのに、“まさかこんな路地裏に?のどかな境内があるとは!”と夢にも想像することができなかった。そこは『Shall We ダンス?』のマドンナ役だった女優でバレリーナの草刈民代さんと周防さんが結婚式を挙げた神社でもある。結婚式を挙げようということになった時に、どこで式を挙げるか悩んだそうである。 「普通の結婚式場やホテルというのは気が進まなくて、ちょうど、民ちゃん自身が赤ちゃんの時に、お宮参りをした神社があるというので、どうせ挙げるならゆかりの神社がいいということになったんですよ。こじんまりして、誰にも内緒で、氏神さまということでもあるし決めたんですね」 映画が爆発的にヒットし、社交ダンスブームを巻き起こしている最中の女優と監督との電撃的な結婚は、世間をアッと驚かせた。 「その後、バレて大騒ぎになっちゃったんですけど、式を挙げたのが亀岡八幡宮を知るきっかけでしたね。彼女が子供の時にお宮参りをした所というのが気に入って、同じ神社に結婚の報告ができるのは良いことではないかと思ったんです」 神社のある場所が、新居から歩いて十五分ぐらいということもあり、周防さんの散歩コースに組み込まれるようになった。 「こんなにぐちゃぐちゃと車が多いのに、すごく静かなんですよ。健康にもいいかと思って、神社の急な階段を登ったり降りたりしています」 『Shall We ダンス?』のプロモーションで、アメリカに十回以上出かけた時も、その前には必ず神社にお参りしたという。 「飛行機に乗るのが怖いもんですから、必ず毎回、無事をお祈りしていました。それ以外でも、甥っこや姪っこのお宮参り、節分の豆撒きに出かけたりしています」 周防監督を一躍有名にした『シコふんじゃった。』にしても『Shall We ダンス?』にしても、おそらく日本映画史上、初めてではないかと思うくらい数多くの賞を受賞している。「自分がいち映画ファンだった時のことを考えると、賞をとった映画が必ずしも自分の好きな映画だったわけではありません。賞は、本当に選ぶ側のお祭りで、選ぶ側が問われているのだとずっと思ってきました。ただ、賞をとることによって興味をもってもらったり、観客が増えたりするわけですから、幸運なことだとは思います」 『Shall We ダンス?』はアメリカでも観客をたくさん動員した。受けた理由というのは何だろうか。 「日本と同じです。要するにビジネスマンの話で、中年の精神的な危機というテーマが彼らにとっても身近なものだったのです。危機をどう回避するかという中に、ダンスがあったわけです。家族と踊りと音楽は全世界共通のテーマだと向こうで言われました。観客の笑う場面も同じでした」 周防監督の映画には、流行りのSFXやCGもなく、過激な暴力やセックス描写といった観客への媚びもない。あるのは鈴木清順監督を受け継ぐユーモアの精神と小津安二郎監督風のほのぼのとした空気、何事も深刻ぶらずに笑い飛ばす姿勢である。 ところで最後に、結婚生活はうまくいっていますかと訊いてみた。「お互いに結婚の幻想を抱いていなかったので、全然無理しないでやっていけます。共同生活といった感じでしょうか」という答えが返ってきた。早く次の作品が見たいものである。 |
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文と写真 柴野利彦 |
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[周防正行 すおうまさゆき]映画監督。 1956年東京生まれ。立教大学仏文科卒業。ピンク映画の助監督をしながら映画作りを学ぶ。84年、『変態家族 兄貴の嫁さん』で監督デビュー。89年、『ファンシイダンス』公開。92年、『シコふんじゃった。』で日本映画監督協会新人賞、日本アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞などを受賞。96年、『Shall We ダンス?』公開。香港、台湾、全米、ヨーロッパでも公開。近著に、「『Shall We ダンス?』アメリカを行く」(太田出版)がある。 |