◎漫画家/松本零士さん

子供時代に、アニメブームの先駆けとなった『宇宙戦艦ヤマト』やアニメ映画『銀河鉄道999』を見て、宇宙に思いを馳せた人は少なくないだろう。そしてユーモアとペーソスを微妙に織りまぜた『男おいどん』に、ため息をつきながらも自分の青春時代を重ねた人もいるに違いない。それらの原作者・松本零士さんは、二00一年公開予定の新しい映画『宇宙戦艦ヤマト』の準備に入っている。創作現場の裏側をちょっぴり覗かせてもらった。



地球撮影年月日に見る、あるもの悲しさ



松本零士さん宅の応接間は、漫画を描く時の参考資料でごった返している。たとえば世界各地で手に入れた数々…モヤイ像のミニチュアや象の顔のカメルーンの民芸品、楔文字のような木簡の手紙、北欧産と思われる古整理ダンス、アールヌーボー風の照明器具、ドイツ戦闘機の本物のプロペラ、それに『銀河鉄道999』の英語版や中国語版、イタリア語版、フランス語版などの本が山積みとなり、漫画のキャラクターのフィギアも飾ってある。松本さんが覗いている複雑な機械(写真)は、B29の爆撃照準機で、当時は軍事機密としては最大のものであった。日本はこれによって焦土と化したのだ。
「この爆撃照準機は核爆弾の投下演習に参加していたらしく、人体には無害なレベルの放射能が測定されます。正直言いましてコレクションの資料としては面白いんですけど、半分憎たらしいですよ。恨めしくもあり、あんまりよい気持ちはしませんね」
子供の頃からエンジンや時計、天体望遠鏡といったものにオタッキーな熱意を注いできて、それは今でも変わらないらしい。
「飛行機マニアなものですから、メーターパネルがゴチャゴチャしているものじゃないと気にくわないんです。車を買う時の基準は、ダッシュボードにメーターが七つぐらいついていること、時計であればダイヤルが多ければ多いほどいい。複雑であれば複雑であるほど気に入るんです」
機械時計にも凝っていて、そのコレクションはかなりの数にのぼる。宇宙飛行士の毛利衛さんがエンデバーに乗って、松本さんの大切にしていた時計を腕にして宇宙を飛んだというエピソードもある。飛んだ時には、「あれぐらい感動したことはないですね。自分が乗っている感じがして、絵空ごとではなくて、自分と接点があるわけですから。若い頃に女房が誕生日に買ってくれたものです」
さてつい最近、麻薬騒動を起こしたことのある映画製作の元某プロデューサーが機関銃や手榴弾を隠していて捕まったが、ロイヤリティがほとんど支払われていなかったことが判明し、松本さんは怒り心頭に達している。
しかし「腐ったお金はもらわなくてよかった」とかえって潔い。そして新しい映画『宇宙戦艦ヤマト』の製作に着手する。
「現在、製作準備中です。ストーリーボードも既にできています。CGも使って、もっときらびやかで、もっと大胆になります」と抱負を語ってくれた。子供の頃から宇宙に思いを馳せてきた松本さんだが、宇宙を考えることは、「時間の概念の中における生命の存在を考えることです」と言う。応接間の壁にはアポロ11号の宇宙飛行士が撮った月面からの地球の写真が貼られている。特別に注文して写真を引き延ばしたのかと思って訊ねたら、「八枚一組の糊付きで、当時の値段で一万三千五百円の壁紙です」とあっさり教えてくれた。
「雰囲気が出るでしょ」とつないでから、この写真を初めて見た時、「こういう風景を自分の目で見たいと思いました。この写真の中に自分がいるかと思うと面白くないんですよ。自分がいない地球の写真を撮ってきたいんですね。これは1965年頃のもんですから、オヤジもオフクロもネコのミー君もまだ生きていました。地球の撮影年月日を見ると、あるもの悲しさが溢れてきて、感慨無量になります」と遠くを見やる目つきになった。

文と写真 柴野利彦

[松本零士 まつもとれいじ]
漫画家。

1938年福岡県生まれ。デビューは15歳。修学旅行で上京した折り、出版社に寄って原稿料をもらったというエピソードが残っている。『男おいどん』がヒットし、冒険SFの『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』がブレイクして今日に到る。「(財)日本宇宙少年団」理事長。日本漫画家協会特別賞、講談社出版文化賞など受賞多数。近著にスイス紀行の『時の歯車』(NHK出版)がある。

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